Object Stories — 細小路 圭「花と蝶」

江戸切子は、一つひとつ、職人の手により生み出されます。中でも、鉢や花瓶、大皿など、サイズの大きな江戸切子や、伝統文様にとらわれない自由なカットの江戸切子は“一点もの”として制作されます。作品展への出品やオーダーメイドを目的につくられることの多いそれらは、職人にとってどんな存在なのでしょう。

ここでは、そんないわゆる一点ものの“作品”に向き合う職人に質問。作品や、作品づくりへの想いを伺います。今回は「ミツワ硝子工芸」の職人として、仕事に、作品づくりに打ち込む伝統工芸士の細小路 圭さんです。

伝統工芸士 細小路 圭氏

 

細小路 圭・作「花と蝶」

細小路 圭氏 作品 「花と蝶」


以前、インタビューで「江戸切子は自分の生活の一部。好きなことであり、仕事でもある。だから自分の作品も、商品も、垣根はないです」と語ってくださった細小路さん。作品は、自身の想いが入っているというより、多くの人が「よい」と感じ、その人たちの気持ちが入るような存在になればと考えているそうです。

この「花と蝶」は、第26回「江戸切子新作展」で東京都知事賞を受賞しました。モチーフの美しさはもちろん、そのアイデアや視点の細やかさに、思わずため息がもれます。

「青は冷たさを感じる色ですが、花に蝶という情景にある春の暖かさを表現しています。一つが、モチーフを取り囲む周りの色を、カットで全て抜いて透明に仕上げました。さらに、菊つなぎの小さな輝きを刻むことで、より温かみのある作品になるよう仕上げています」

花にとまる蝶をカメラで覗いたときと、写真で青い蝶の美しさを見たとき、その両方の感動から着想したという「花と蝶」。1ヶ月ほどかけて制作したそうですが、仕上げの磨きでカット部分の色が抜けて透明になるため、自身も最後まで完成がわからなかったのだとか。

手掛けた本人すら予測不可能な、ある意味で生き物のような江戸切子には、時にハッとするような美しさがあります。

細小路 圭氏 作品 「花と蝶」 江戸切子 大皿


Q & A


——江戸切子職人にとって“大物”をつくることは、特別な意味がありますか?

「一点もので、自分の好きなようにデザインできるので、時間のかかる難しい表現にも挑戦できます。それゆえ、今現在の技術や価値観が反映されるので、作品を見れば職人がわかるとも言えます」

——グラスやぐい呑みなど、手のひらに収まるものをつくるときと、気持ちや行程は違いますか?

「基本的に、グラスやぐい飲みなどは、商品として手掛けることが多いので、仕事としての効率のよさや考えを大切にしています」

——“大物”を通して伝えたいこととは。

「新しい表現に挑戦しています。他にはない、リアルな表現を見ていただきたいですね」

——今後“大物”で挑戦してみたいことを聞かせてください。

「具体的なことは今はまだ見えていませんが、新しいことに挑戦したいですね。ガラスには、まだまだ表現の可能性があると思っています」


細小路 圭 KEI HOSOKOJI
1982年、岡山県出身。1971年に創業した工房「ミツワ硝子工芸」にて、20〜30代の若手江戸切子職人と共に製造、作品作りにも邁進する。2009年「江戸切子新作展」にて佳作を受賞。2019年、日本の伝統工芸士に認定される。

PRODUCTS