Artisan Interview 2 — 鍋谷淳一さん(鍋谷グラス工芸社)・後編

鍋谷淳一 JUNICHI NABETANI
1966年、東京都生まれ。1949年に大田区で創業した「鍋谷グラス工芸社」の3代目として、4代目・鍋谷海斗氏とともに江戸切子と向き合う。2009年、伝統工芸士に認定。2013年には「江戸切子新作展」にて「経済産業省商務情報政策局長賞」を受賞する。

 

江戸切子に携わる人々が、なにを想い、一つひとつの作品や日々の仕事と向き合っているのか。職人のもとを尋ねる連載『Artisan Interview』。2人目は、伝統工芸士の鍋谷淳一さんです。後編では、鍋谷さんにとっての江戸切子、そして重厚感ときらめきが魅力の作品について伺いました。

 

 

プロとして伝えていく

 

——鍋谷さんにとって、江戸切子とはどんな存在ですか。

僕が、誰かにプロレベルで教えられるものでしょうか。

 

実家の工房に入った時、わからないことは父に聞いていました。もちろん、背中を見て学ぶ部分も多かったんですけれど、聞けばどんなにささいなことも的確に教えてくれて。しかも、僕がわからないところも理解したうえで「お前、ここまではわかってるよな。でも、こうするんだ」っていうふうに。だから上達もするし「ああ、こうすればよかったのか」と素直に腑に落ちるんです。こんなにありがたい環境はないやと感じていました。

 

今、僕の息子(4代目・鍋谷海斗氏)が工房で働いています。大学を卒業してすぐ入って、今年で5年目。1日も早く伝統工芸士の称号をいただけるようにと、頑張っているようです。彼がわからないことがあれば、僕も父のように教えているんですが、僕が自分の息子にプロレベルで教えられるものは江戸切子しかありません。でも、これがあってよかったし、うれしいですよね。江戸切子を仕事にしたいという人に対して、ちゃんとした技術や知識を持って教えることができるんですから。

 

自分を「プロレベル」と自負できるのは、伝統工芸士という称号をいただいたことが大きいように思います。僕の父は伝統工芸士ではなかったので、僕がいただいた時には、自分のことのように喜んでくれました。

 

 

難しさを魅力に仕上げる

 

ーー鍋谷さんの作品「男のロック」や「流星ロック」といえば、力強い厚みのある特注ガラス。その重量感ときらめきのバランスは、独特の魅力があります。

実は、その特注ガラスが一番苦労する部分なんです。そもそも、江戸切子のガラスは薩摩切子と比べて、そんなに厚くないですよね。でも僕は、厚みのあるガラスにも魅力を感じていて、自分の作品でカットしてみたいと考えていました。

 

そこで「男のロック」を考えた時に、カガミクリスタルに相談して。半年くらいかけて、いろいろな色を被せる試作を繰り返してもらい「これだ」というのはできました。

 

ただ、いまだに安定的につくるのは難しい。というのも、カガミクリスタルは江戸切子専門なので、厚いガラスは未知の世界。20人くらいいるガラス職人の中でも、1〜2人しか、僕のお願いする特注ガラスは吹けないそうです。しかも、機械じゃないから、毎回同じ厚さに吹くのは難しい。生地一つひとつに、どうしても個性が出ます。

あと、この特注ガラスは2色の違う色を被せている「多重被せ(たじゅうきせ)」という技術を使っています。外面に1mmくらいしか被せていないんですよ。これも難しいポイントであり、こだわっているところ。

 

色を、ごく薄く被せているから、ちょっとしたカットのさじ加減で印象が大きく変わるんです。もちろん、毎回同じデザインになるよう心がけていますが、カットするまでどうなるか僕自身わからない。どうしても仕上がりに個性が出るので、同じ「男のロック」「流星ロック」とうたえる作品に仕上げていくのは苦労します。

 

カットする時は、緊張感と隣り合わせです。透明な部分を美しく出すのが多重被せの一番のポイントなので、うまく出た時は、自分でも「おおーっ、うまくできたぞ!」と感動します。

 

そういう難しさもあり「男のロック」も「流星ロック」も受注生産なんです。世界に二つとして同じものはないから、ご注文いただいたお客さまが仕上がったものを手にして「格好いい」と言ってくださると、つくってよかったと感じますね。僕自身も、この特注ガラスにこだわっているところが格好いいと思っているので。

 

——今後、取り組んでみたいことはありますか。

 

息子とコラボレーションしてみたいです。日々、同じところで肩を並べて同じ仕事をして、同じ道具を使って、その道具の使い方をレクチャーするので、作品の風合いも似てるんですけれど。そこに息子がどんなエッセンスを足すのか楽しみですし、2人でつくる作品が増えていけば、工房としてまたおもしろくなっていくんじゃないかなと。

 

* * *

 

ガラスへの知識があるからこそ、生み出せる作品。一筋縄ではいかない難しさも含めて魅力に変えてしまう、鍋谷さんの確かな技術力を感じました。4代目との共作も、期待されます。

 

鍋谷淳一さんの製品は 室町硝子工芸 白金店にて実際にご覧いただけます。WEBでの販売は行なっておりません。白金店のみの販売となります。

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