Object Stories — 山田のゆり「陽光」

江戸切子は、一つひとつ、職人の手により生み出されます。中でも、鉢や花瓶、大皿など、サイズの大きな江戸切子や、伝統的な文様にとらわれない自由なカットの江戸切子は“一点もの”として制作されます。作品展への出品やオーダーメイドを目的につくられることの多いそれらは、職人にとってどんな存在なのでしょう。

ここでは、そんないわゆる一点ものの“作品”に向き合う職人に質問。作品や、作品づくりへの想いを伺います。今回は「ミツワ硝子工芸」の女性職人として活躍する、伝統工芸士の山田のゆりさんです。

江戸切子 伝統工芸士 山田のゆり氏

山田のゆり・作「陽光」

伝統工芸士 山田のゆり氏 作品「陽光」

幼少期からガラスに惹かれ、高校卒業後はガラスの専門学校で学び、現在の仕事についた山田さん。「カッティングして、磨き、艶を出すと、まるで宝石のようにきらきらと存在感を放ち、より一層ガラスの魅力を引き出す。それこそが江戸切子の一番魅力だと思う」といいます。

第30回「江戸切子新作展」に出品された「陽光」は、グラスウェアータイムス社の奨励賞を受賞しました。

「この作品は、太陽の光に感謝する日々から発想しました。七宝、星、菊のモチーフを、金赤のガラス生地にカッティングしています。毎日、終業後に制作しましたが、細かい星の統一感に苦心しましたね。重量があると、手元のコントロールが難しいのです。江戸切子の伝統文様が隣り合わせで醸し出す、光の美しさを感じていただけたらうれしいです」

何気ない日常に差し込む、陽光のように。穏やかな優しさで、山田さんの作品は見る人を包み込みます。その名に込められたぬくもりを、どうぞ感じてください。

作品「陽光」 底面

Q & A

——江戸切子職人にとって“大物”をつくることは、特別な意味がありますか?

「はい」

——グラスやぐい呑みなど、手のひらに収まるものをつくるときと、気持ちや行程は違いますか?

「心を込めて制作する気持ちや、基本的な行程は同じです。重量があるものの場合は、彫る面積も多いので、心身ともによりエネルギーが必要です」

——“大物”を通して伝えたいこととは。

「私は、ガラスの光に希望を感じます。そのようなことを、作品を通じてお届けできたらうれしいです」

——今後“大物”で挑戦してみたいことを聞かせてください。

「一流と思える、江戸切子の新しい表現を追求していきたいですね。また、この江戸切子という素晴らしい技術を、より多くの方々に知っていただきたいとも思います」

山田のゆり NOYURI YAMADA

1984年、神奈川県出身。1971年創業、埼玉県・草加市の切子工房「ミツワ硝子工芸」の若手職人。「江戸切子新作展」にて、受賞経験多数。2017年、匠なでしこ認定。2020年に、最年少で日本の伝統工芸士に認定される。

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