Object Stories — 石塚春樹「Falling」
江戸切子は、一つひとつ、職人の手により生み出されます。中でも、鉢や花瓶、大皿など、サイズの大きな江戸切子は“一点もの”として制作されます。作品展への出品やオーダーメイドを目的につくられることの多いそれらは、職人にとってどんな存在なのでしょう。
ここでは、そんないわゆる一点ものの“作品”に向き合う職人に質問。作品や、作品づくりへの想いを伺います。今回は「ミツワ硝子工芸」のチーフ職人でもある伝統工芸士の石塚春樹さんです。
石塚春樹・作「Falling」
石塚さんは、街を歩いているときなど、日常的に目に飛び込む、さまざまなものからアイデアをストックしているといいます。この「Falling」は、三角のピースが合わさったバッグを何度か見かけ、そこから閃いたそう。「グラデーションを強く残し、三角形の物体が上から下に落ちては溜まっていく、デジタルアートのような作品を表現しました」。
完成には、およそ1ヶ月。ガラス生地そのものが細長いため、手で持ちづらく、カットを施す機械との距離感も普段と違い、制作にはやはり苦労したのだとか。「いかにミスのないように完成させるか、苦心しました。形状もカットも珍しいので、じっくりおたのしみいただければと思います」。
伝統文様ではないが、同じ形を連続して組み合わせ、切子らしさとモダンな印象を両立しています。見るほどに、おもしろみを感じる作品です。
Q & A
——江戸切子職人にとって“作品”をつくることは、特別な意味がありますか?
「作品は、自分の中から出たアイデアを、普段と違うサイズで製作します。つくることができても年間に2作品なので、やはり特別です」
——グラスやぐい呑みなど、手のひらに収まるものをつくるときと、気持ちや行程は違いますか?
「美しくつくりたいと思う気持ちは同じですが、作品の形によっては行程を変えないとできないものもあります。また、日頃は工房の仕事もあり、日常的に作品と向き合っているわけではないので、やはり不安や緊張感はあります」
——“作品”を通して伝えたいこととは。
「今までにあまり見たことのないデザインを生み出そうという、チャレンジ精神を伝えられたらうれしいですね。江戸切子にも、こんなにさまざまなデザインができるのだという、可能性を感じていただきたいです」
——今後“作品”で挑戦してみたいことを聞かせてください。
「今まで、自分自身もほかの職人もやったことのない、斬新で、さらに美しい江戸切子をつくれたらと思います」
石塚春樹 HARUKI ISHIZUKA
1982年、栃木県出身。1971年に創業した工房「ミツワ硝子工芸」のチーフ職人として、20〜30代の若手江戸切子職人を牽引する。2007年「江戸切子新作展」にて、初出品・初受賞。2018年には日本の伝統工芸士に認定される。2019年の「江戸切子新作展」では「Falling」を出品し、第1位「経済産業省 製造産業局長賞」を受賞する。
当記事 画像提供元:ミツワ硝子工芸