Artisan Interview 3 — 石塚春樹さん(ミツワ硝子工芸)・前編

石塚春樹 HARUKI ISHIZUKA
1982年、栃木県出身。1971年に創業した工房「ミツワ硝子工芸」のチーフ職人として、20〜30代の若手江戸切子職人を牽引する。2007年「江戸切子新作展」にて、初出品・初受賞。2018年には日本の伝統工芸士に認定される。2019年「江戸切子新作展」にて、第1位「経済産業省 製造産業局長賞」を受賞する。

 

江戸切子に携わる人々が、なにを想い、一つひとつの作品や仕事と向き合っているのか。インタビューで紐解いていく連載『Artisan Interview』。第3回目は、工房の若手10名をまとめつつ、作品にも真面目に向き合う、江戸切子の伝統工芸士・石塚春樹さんです。

江戸切子 伝統工芸士 石塚春樹氏

画像提供:ミツワ硝子工芸

 

ゆるやかに始まった職人としての日々

——石塚さんが、江戸切子の職人になるまでのお話から聞かせてください。

僕の実家は、家族で農業をやっています。子どもの頃は、ひいばあちゃん含めて8人という大所帯で、僕は次男なので「大人になったら外に出て、なにか見つけなさい」と言われて育ちました。

大学は、人文学部という文系の学科へ入ったんですが、就職活動の時期がきてもやりたいことが見つからない。いろんな企業が集まる就職セミナーへ行くものの、そこで目の当たりにする社会人の先輩に、どうもぐっとこないんです。会社員になるのは違う、というのは分かりました。

じゃあ、なに? といわれても、別にない。そうこうするうちに時間は過ぎて、心配した方から、ある日「どうするの?」と聞かれて「職人ですかね」って口から出たんです。漠然と、何か作りたいと思って。そこからです、本当になにがしたいのか考え始めたのは。

石塚春樹氏 室町硝子インタビュー時


本やインターネットで調べて「職人は下町の葛飾区にいる」と、もはやイメージですけれど(笑)、自分なりの職人情報にたどり着きました。さっそく、葛飾区の立石にある伝統工芸品が置いてある店を見に行ったら、江戸切子があって。きれいだな。ガラスがピカピカしてるな、と素直に惹かれました。

店に置いてあったパンフレットに、江戸切子の会社が3社載っていたので、一件一件「雇ってください」と電話しました。結局は全て断られたのですが、そのうちの一社がミツワ硝子工芸に連絡してくださって。返事は「一回来てみれば」。いま思えば世間知らずですが、今日みたいなTシャツにデニム姿で、創業者である初代と面接しました。そうしたら「とりあえず来てみれば」と。

当時、別に人が欲しかったわけではないそうです。ただ、僕の上に若い人がいなかったので、受け入れてもらえたんですかね。それからは、一ヶ月に一度、都合の合う日に工房へ行って「ほら、このガラスで削ってみろ」って言われては削る。遊びから、職人としての日々は始まったんです。大学4年の9月頃ですね。

江戸切子職人 石塚春樹氏

 

悔しさと優しさが道を繋げてくれた

——江戸切子の職人として「食べていく」という気概は、最初からあったのでしょうか?

 

いえ、当時は、そんな強い意志はまだありませんでした。自分のいいなと思ったものをやりたいというだけ。

「やってやるぞ」と思ったきっかけは、入ってすぐの頃、ふと耳にした「どうせすぐ辞めるだろう」っていう僕への陰口です(笑)。僕が入る前に若い職人がたくさん辞めていたこともあったようです。それを聞いて「いやいや、辞めないけれども!」と思って。

あとは、会社がちゃんと面倒をみてくれたことも大きいです。基本的に、江戸切子のような伝統工芸って、父から子へと継いでいくもの。外から職人を入れるって、信用もないとなかなか難しい。それに本来、入ってすぐなんて「お前は2年間、割出ししてろ!」みたいな厳しい世界です。でも、うちの会社は徒弟制度はないものの、しっかり丁寧に教えてもらえたうえに、どんどん任せてもらえました。

江戸切子工房 ミツワ硝子工芸


最初はもちろん、仕事が終わった後は練習、練習ですよ。でも、練習ばかりではなくて、早ければ、その技法に取り組み出して1〜2週間でも、失敗が出づらいところから、その加工を実際に担当させてもらえたんです。すごいことですよね。でも、そうして毎日毎日、同じ加工に向き合っていると、慣れてくるんですよ。慣れると、よりきれいに仕上がるし、スピードも上がります。そういう積み重ねで、いろいろできるようになって「これもやってみる?」「あれもやってみる?」がどんどん増えていきました。

職人は甘い世界じゃないと思っていたから、単純に楽しかったですね。注意はされるけど、教え方も優しかったですし。会社として、長くうちにいてもらおうというスタイルということもあるでしょうが、本当に恵まれていました。

 

江戸切子 伝統工芸士 石塚春樹氏 

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「大学生のガキが、なにも考えずに飛び込んだのに、受け入れてもらえたことがまずすごい」と石塚さん。持ち前の反骨精神と、一度これと決めたらやり続ける性格が、江戸切子職人としてここまできた理由かもしれない、とも。後編では、石塚さんが作品をつくり始めたきっかけと、江戸切子への想いや考えをご紹介します。