Object Stories — 細小路 圭「菊唐草水指」
ガラス生地に、切子職人が一つひとつ、伝統的文様などをカットしていく江戸切子。たとえデザインは一緒でも、全く同じものは世界中どこにもない、日本が誇る伝統工芸品です。
中でも、鉢や花瓶、大皿など、サイズの大きな江戸切子は“一点もの”として制作されます。作品展への出品やオーダーメイドを目的につくられることの多いそれらは、職人にとってどのような存在なのでしょう。ここでは、一点ものの“作品”に向き合う職人に、作品や、作品づくりへの想いを伺います。
今回は「ミツワ硝子工芸」の職人である、伝統工芸士の細小路 圭さんにインタビュー。2021年、若手職人のエネルギー溢れる作品が並ぶ「第33回江戸切子新作展」にて、経済産業省 関東経済産業局長賞を受賞した作品に込めたエピソードをご紹介します。
細小路 圭・作「菊唐草水指(きくからくさみずさし)」
「僕は、芸術家になりたいわけではなく、(江戸切子の)職人であり、デザイナーでありたいんです。だから、手掛ける作品も、多くの人が『いい』と感じてくださり、その人たちの生活が豊かになるような存在になれば」という細小路さん。お客さまが何を求め、現代の生活にどのような江戸切子が必要とされているのかを考えることから、作品づくりが始まるといいます。
そんな細小路さんの新たな世界が「菊唐草水指(きくからくさみずさし)」。唐草文様のダイナミックな曲線と、菊繋ぎの繊細なカットが施された一品です。中を覗き込むと、底には大輪の花が咲き誇ります。
「この『菊唐草水指』は、飾ったときに空間に溶け込み、その場や時間がより豊かで価値のあるものになるような作品を目指しました。生地が先にあったので、その形や色に合うものはと考え、1ヶ月ほどかけて制作しています。
苦心したのは、唐草文様でしょうか。この生地の形や色には文様のカーブは小さいほうが美しく、バランスがよいと思ったので、僕が切子でできる限界まで曲げて表現しました。そうすることで、全体を見たときに品も出ます」
「先入観を持たず、見たままを感じていただければ」とも話す細小路さん。見た方が、自身の生活空間にこの作品を加えることで、どのような変化があるかを想像して楽しんでいただきたいそうです。
大胆さと緻密さが同居し、伝統文様を取り入れながらも、どこかモダンな印象も覚える細小路さんの江戸切子。どうぞじっくりおたのしみください。
Q & A
——今後“作品”で挑戦してみたいことを聞かせてください。
「実はまだ、具体的には何へ挑戦するかは決まっていません。でも今回の作品は、僕なりの挑戦の一つ。これからも、誰もつくったことのない作品、そして新しい価値を生み出したいと思っています」
細小路 圭 KEI HOSOKOJI
1982年、岡山県出身。1971年に創業した工房「ミツワ硝子工芸」にて、20〜30代の若手江戸切子職人と共に製造、作品づくりにも邁進する。2009年「江戸切子新作展」にて佳作を受賞。2019年、日本の伝統工芸士に認定される。