Artisan Interview 5 — 山田のゆりさん(ミツワ硝子工芸)・前編

山田のゆり NOYURI YAMADA

1984年、神奈川県出身。1971年創業、埼玉県・草加市の切子工房「ミツワ硝子工芸」の若手職人。「江戸切子新作展」にて、受賞経験多数。2017年、匠なでしこ認定。2020年に、最年少で日本の伝統工芸士に認定される。

 

江戸切子に携わる人々が、なにを想い、一つひとつの作品や仕事と向き合っているのか。工房へ伺い、お話を伺う連載『Artisan Interview』。第5回目は、女性の江戸切子・伝統工芸士として活躍する、山田のゆりさんです。

江戸切子 伝統工芸士 山田のゆり氏

幼心を捉えたガラスの美しさ

——山田さんが、江戸切子に惹かれたのはなぜですか。

幼稚園の頃の夢が「ガラス屋さんになりたい」でした。いつもは食器棚に飾っているグラスを、両親が記念日やお祝いのときに出して乾杯する。普段はけんかすることがあっても、グラスを囲むときは幸せな雰囲気になるのがすてきだなって思ったのが始まりですね。

高校で将来を考えたときに、やっぱりガラスが浮かびました。1年間、浪人しながらフリーターをしていたのですが、その間もガラスで頭がいっぱい。結局、東京ガラス工芸研究所というガラスの専門学校へ3年通いました。

この学校では13通りのガラスの加工技法を学ぶんですけれども、一番魅力を感じたのは江戸切子でした。ある日の授業で、ガラスを実際に削って、3つの作品を制作するという課題が出たんです。それで、いざカットし始めたら、これはおもしろいぞとすぐにビビビッと感じました。なおかつ、仕上がった状態もすごく美しくて。きらきら、きれいな江戸切子の姿に、どんどん引かれました。

江戸切子 女性伝統工芸士 山田のゆり氏

そもそもガラスという素材は、何もしなくても美しい存在だと思うんです。けれども江戸切子は、その技法によって、より一層ガラスの魅力を引き出してくれる。カッティングして、磨いて、艶を出すと、まるで宝石のようにきらきらと存在感を放つんです。それこそが江戸切子の一番魅力だと、私は思っています。

——江戸切子の職人では、女性はまだまだ珍しいと伺いました。

そうですね。卒業式の次の日から「ミツワ硝子工芸」で働いていますが、13年ほど前の当時は特に、女性の職人はどこを見渡してもいなくて。

私の面接は会長がしてくださったのですが「女性は結婚すると、子供を産むなどして家庭に入り、辞めてしまう人が多い。だから採用しないところが多い。でも、ここは違うよ。やりたければ、いつでも来ていいよ」って、優しく受け入れてくれました。

ミツワ硝子工芸 工房内

あと、職人の世界は、江戸切子でも「洗い3年」という言葉があるぐらい厳しいのですが、うちの工房は、誰もがいろいろな仕事を同じようにできるようになってほしいと、先輩職人がしっかり教えてくださり、どんどん任せてもらえます。私は専門学校で菊繋ぎのような細かいものも習っていたので、入社3日後には商品の菊繋ぎをさせてもらいました。ただ、学生のときは個数を削るということは経験がなかったので、数十個、100個単位で、一気に削る職人の世界の効率のよさとスピードは、仕事をし始めてから強く意識するようになりました。

江戸切子 女性伝統工芸士 山田のゆりさん

 

* * *

幼心に抱いた「きれい」「好き」という感覚は、そのままに。イチ職人として、シビアに仕事としても江戸切子を捉えている山田さん。仕事中は、つねに時間との勝負だそうです。さて、後編では、山田さんが江戸切子へ抱く想いや、その未来について考えていることなどを伺います。

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