Artisan Interview 5 — 山田のゆりさん(ミツワ硝子工芸)・後編
山田のゆり NOYURI YAMADA
1984年、神奈川県出身。1971年創業、埼玉県・草加市の切子工房「ミツワ硝子工芸」の若手職人。「江戸切子新作展」にて、受賞経験多数。2017年、匠なでしこ認定。2020年に、最年少で日本の伝統工芸士に認定される。
江戸切子に携わる人々が、なにを想い、一つひとつの作品や日々の仕事と向き合っているのか。インタビューする連載『Artisan Interview』。5人目は、伝統工芸士の山田のゆりさんです。後編では、山田さんが江戸切子へ抱く想いや、その未来について考えていることなどを聞いていきます。
ずっと、つくり続けていきたい
——山田さんが、江戸切子と向き合ううえで、いちばん大事にしていることはなんですか。
いかに心を込めるか。つまり、愛情が入っていることでしょうか。
愛情が入っているものとそうでないものを並べたとき、たとえばちょっと下手でも、愛情が入っているもののほうが愛着が湧いて、長く使ってもらえるはず。ただ、頭というよりは心で感じるものだとも思うので、まずは強い愛情が自分の中に燃え続けることも大事。一人の人間としても、職人としても、その火を絶やしてはいけないな、と思います。
——では、愛情を絶やさないためにも、日頃心がけていることや大事にしていることは?
サントリー美術館ですとか、昔の江戸切子を収蔵しているところの展示には必ず足を運びます。あとは、チェコだとかイギリスなどの昔のカッティングを、本やインターネットでよく見るようにしています。
百貨店のガラス売場へも、よく行きますね。それと今、100均でもカットグラスが買えるので、見に行ったりします。中国産のカットガラスなんですけれど、こういうのが100円で買えるんだ、と。基本的にガラスが好きなので、昔の貴重なものもリーズナブルなものも、満遍なく見ます。
あとは、映画のシーンに出てくるカットガラスにも引かれますね。『ランボー』や『ローマの休日』など、昔の映画にカットガラスのグラスとかデキャンタとかが出てくるんですが、デザインもすごくきれいで見入ってしまいます。
——さまざまなカットガラスを目にすることは、作品作りにも役立っていますか?
いえ、好きだから見てしまう感じです。デザインを生み出すときは、また脳みそが別で、自分自身から出てくるデザインじゃないとだめなんですよね。
基本的に、江戸切子は伝統文様の組み合わせなので、ある意味、まねといえばまね。その中でも、自分の中から出てくる「斬新」と思えるものを形にするようにしています。
彩螺旋 丸オールド 金赤
たとえば「彩螺旋(さいらせん)」でいうと「四季」をテーマに、春夏秋冬という日本の四季の区切りと季節の移り変わりを、曲線に江戸切子の伝統文様に組み込んで表現しました。あとは、菱を重ねて風を表してみたり、あえて統一感をなくしたり、1年を通しての自然の流れがあります。
——話は変わりますが、2020年に日本の伝統工芸士に認定されました。ご自身の中で意識が切り替わったり、思うことはありますか。
先輩方にとてもお世話になって今があるので、まずは感謝ですね。丁寧に教えていただいていること、そして毎日江戸切子の製造に携われていることが、ありがたいです。
ミツワ硝子工芸所属、伝統工芸士の3名
左から 細小路 圭氏、石塚 春樹氏、山田 のゆり氏
画像提供:ミツワ硝子工芸
その中で、伝統工芸士に認定されたのだから、まだまだ認知度が低い江戸切子を、誰もが知る工芸品にしていけたらと思っています。そのためにも「これ、いいわね」と手に取ってもらえる、斬新で、人の目を引きつける江戸切子を作っていきたい。
江戸切子は、私にとって人生そのものです。人生となると、道を外れてはいけないですよね。
私は毎日、江戸切子の製造という仕事がしたいんです。その中で、江戸切子の技術も学び続けていたいと思っています。ありがたいことに、仕事の中で、自社作品のデザインに携わる機会もあるんですけれども、商品としてロングセラーになるデザインを、もっともっと生み出していけたらとも思っています。
まだまだ、気持ちとしても技術としても、一生修行の道。いい意味で自分を認めつつ、学ぶ気持ちをずっと持ち続けたい。そして、次の世代につなげるにはどうすればいいか、考え続けている人になりたいです。
山田氏作品「志」
画像提供:ミツワ硝子工芸
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唯一無二の創造性を覗かせながらも、一人の職人として、日々製造していきたいと、仕事への熱意を語ってくださった山田さん。最年少で伝統工芸士に認定された今も「毎日ゼロから学ぶ気持ち」とのこと。そこには、本当に好きだからこそ関わり続けたい。そのためにも、これからも工芸品として江戸切子が愛されて欲しいという、江戸切子への愛情が表れていました。