職人と江戸切子 -Vol.3 緻密で繊細な「菊繋ぎ」の魅力
伝統工芸としても知られる「江戸切子」は、ガラス職人が一つひとつ息を吹き込むガラス生地に、江戸切子職人が細やかなカットを施していきます。まさに熟練の技が成せる美。繊細で華やかなその輝きを生み出すべく、職人は、くる日もくる日も江戸切子と向き合います。
豊かな経験に甘んずることなく、目の前のガラス生地をいかに美しく仕上げるかを考え、手を動かす。厳しくもすばらしい、その世界。
ここでは、唯一無二の江戸切子に欠かせない“職人”を取り巻くストーリーをご紹介します。
さて、これまでお話しした江戸切子の特徴であり、美しさの要となるのが、伝統文様など文様のカットです。今回は「菊繋ぎ」という文様について。
菊繋ぎは、縦・横・斜めの直線を組み合わせ、連続する文様を繋ぐようにして表現します。細かなカットの交差が「不老長寿」を意味する菊の花に見えることから、こう名付けられました。「きく=喜久」とも書けるため、喜びが久しく繋がるという意味もあります。
難しくも美しさに繋がるポイントは、江戸切子の伝統文様の中でも、一つひとつのカットが多いこと。線一本のずれが全体の出来を大きく左右するため、職人は、カットの深さや交点をしっかり合わせることを常に心がけながらカットしていきます。
ちなみに伝統文様のカットは、湾曲の度合いが強い面ほど難易度が上がります。つまり、グラスなどの側面に細やかな文様が施されている江戸切子は、卓越した職人技のあらわれ。その凄味を感じられるといえるのです。
緻密で繊細な菊繋ぎは、光の反射が起こりやすく、江戸切子らしいキラキラと華やかな輝きをたのしめます。人気の高い文様で、さまざまな作品に用いられていますが、中でも映えるのは、やはり被せガラス。カットした文様部分の色が透明になり、色のコントラストもたのしめます。
全てのカットが作品の完成度に直結する江戸切子。職人は、完成形を思い浮かべながら、手にするお客さまのために、目の前のガラスと向き合っています。