江戸切子で味わう — 牛肉とクレソンのすき焼き×黒ぶどうのシャンパン
ガラスをカットすることで生まれる、繊細で華麗な江戸切子の輝き。そのきらめきを、飾ってたのしむ方も多いでしょう。一方で、お好きなお酒を飲むなど、実際に使用してこそ感じられる魅力もあります。
ここでは、四季折々の食卓におすすめのレシピと、合わせてたのしみたい江戸切子をご紹介します。旬や年中行事をたのしみながら、江戸切子を器として活用するよろこびを感じてみませんか。
「すき焼き」のルーツ
さて、一年というのは、なぜこうも早く過ぎるのでしょう。あっという間の年末年始。一年の労をねぎらい、あたらしい日々へ景気をつけるべく、今年はご家庭でちょっと贅沢をしませんか。そこで今回は、江戸切子のシャンパングラス片手にいただく「すき焼き」のレシピです。レシピをご紹介する前に、そもそもすき焼きのルーツは、皆さんご存知でしょうか。
すき焼きの語源は、江戸時代に農夫が農具の「鋤(すき)」を火に立て、その鉄部分で魚を焼き、食べたこと。豊かな山間部で始まった料理なので、鶏肉や野鳥なども焼いて食べていたかもしれません。しかし、江戸時代は肉食が禁じられていました。
公に肉を食べ始めたのは幕末の頃です。外国との交易が始まり、異国文化の流入とともに牛肉を入れるように。明治時代には「牛鍋」などと呼ばれて人気が高まります。しかし当時は、味付けに肉の臭みを和らげる意味もあり味噌を使い、今のような味付けではありませんでした。醤油と砂糖で調味するようになったきっかけは、関東大震災。関西の甘辛い味が関東に流れ、現在のようなレシピになったといわれています。
ちなみに、美食家としても知られる芸術家の北大路魯山人は、その食べ方にも徹底的にこだわったのだとか。すき焼きは、わいわい囲む鍋料理ではなく、食材のおいしさを堪能するためのごちそう。味付けは、砂糖を使わず、野菜の甘みやみりんでさっぱりと。肉と野菜を一緒に煮込まず、肉を焼いては食べ、焼いては食べというスタイルだったそうです。
ふくよかで爽やかな「シャンパン」
すき焼きと合わせたいのが「シャンパン」です。華やかな乾杯の席に欠かせないお酒ですが、食中酒としてもたのしめます。シュワシュワとした爽やかな泡は、肉の脂切れもよく、一口ごとにリフレッシュ。食べては飲み、食べては飲み……。食もお酒もすすむでしょう。今回、レシピを提案してくださった料理家の蓮池陽子さん曰く、中でもこんな一本がおすすめだそうです。
「シャンパンは、白ブドウのシャルドネ、黒ブドウのピノ・ノワール、ピノムニエの3品種をブレンドすることが多いのですが、中でも黒ブドウだけでつくるブランドノワールが、すき焼きの“甘じょっぱさ”と相性がいいと思います。
ブランドノワールは、華やかなアロマに、コクのあるふくよかとした味わいです。それでいて上品な泡で、ふくよかでありならも爽やかさもあります(蓮池)」
また、せっかくのハレの食卓。注ぐグラスにもこだわりたいものです。
おすすめは「室町硝子工芸」がこの冬にご紹介する、江戸切子のカットが施されたシャンパングラス「SUI-REN Kikutsunagi スパークリング」です。カップの底面と、フット・プレート部分をカット。「お酒の味わいと姿をたのしむ」というグラス本来の機能性を大切に、カットされた伝統文様が華やかな印象です。
シャンパンが注がれると、細かな気泡とともに、カップ部分のカットが輝き始めます。乾杯でグラスを掲げたり、口をつけたり、注いだり。さまざまな角度に傾けるごとに違う表情が現れ、ついうっとりしてしまうかもしれません。
「牛肉とクレソンのすき焼き」のつくり方
砂糖を使わないことで、通常の“甘じょっぱい”味わいより、さっぱりいただけるレシピです。また、具材もシンプルに。長ネギに焼き目をつけることで風味が加わります。また、仕上げに溶き片栗粉を入れることで、具材にトロッと絡み、体も温まります。材料(2人分)
牛すき焼き肉 300g〜
クレソン 2束
長ネギ 1〜2本
卵 お好みで
薬味(刻んだ柚子の皮、柚子ごしょう、大根おろし、刻んだ青ネギなど) お好みで適量
<割下(つくりやすい分量)>
・濃いめの合わせだし 600ml
・酒 90ml
・みりん 90ml
・薄口醤油 45ml
・塩 小さじ1〜
・片栗粉 大さじ1と1/2〜
つくり方
1 野菜の下ごしらえをする。クレソンは、食べやすい大きさに切る。長ネギは、4〜5cm幅に切り、フライパンなどで全面に焼き色をつける。
2 割下をつくる。小さめの鍋に、片栗粉以外の材料を全て入れて火にかける。沸騰したら火を弱め、水(分量外)で溶いた片栗粉でとろみをつけ、およそ1分間、加熱する。
3 すき焼き用鍋に2の割下を入れて温め、1、牛肉を加えて、さっと加熱する。肉に火が通ったら出来上がり。お好みで、とき卵や薬味と食べる。
RECIPE
蓮池陽子|YOKO HASUIKE
料理家。東京都出身。「Aterie Story」の屋号で、レシピ開発・監修、レシピ本の制作などを行う。