江戸切子で味わう — 雪消碗×純米酒
職人の手で、ガラスを一つひとつ削って生み出される、繊細で華麗な江戸切子。そのきらめきを、飾って味わうのもよいですが、お酒を飲むなど実際に使うなかで感じられる魅力もあります。
ここでは、四季折々の食卓におすすめのレシピと江戸切子をご紹介します。旬や年中行事をたのしみながら、江戸切子をうつわとして活用するよろこびを感じてみませんか。
江戸の洒落心を込めた豆腐料理
雪が溶ける様や雪解け水を指す「雪解け」を、古くから「雪消（ゆきげ）」ともいいます。江戸時代には、その名をもじった豆腐料理が親しまれていたそうです。
今回は、そんな江戸時代のレシピから連想。豆腐に、出汁とかぶのやさしい風味を合わせた「雪消碗」をご紹介します。
さて、豆腐といえば、手に取りやすい価格の身近な食材の一つです。ところが江戸時代初期までは、お正月や冠婚葬祭などといった特別な日にしか食べられない、庶民には手の出ない贅沢品でした。現在のように、庶民の日々の食卓にのぼるようになったのは、江戸時代中期からです。1782年には、100の豆腐料理を掲載した『豆腐珍百（とうふひゃくちん）』というレシピ本も発売され、ベストセラーとなりました。
米の味わいが感じられる「純米酒」
豆腐の味わいをシンプルにいただく「雪消碗」と合わせるなら「香りの主張しすぎない日本酒、とりわけ、まろやかな純米酒がおすすめです」と、レシピを提案してくださった料理家の蓮池陽子さん。
日本酒は、製造の過程で醸造アルコールが添加されるものと、されないものに分けられます。アルコール無添加で、米、米麹、水のみでつくられるお酒が「純米酒」。米の旨味やコクを味わえる日本酒です。
「まずはお酒をきゅっといただいて、舌にその余韻を感じつつ、出汁あんのかかったお豆腐を口に含むとおいしいですよ。
純米酒の魅力のひとつが、さまざまな温度でたのしめることです※。それぞれ違った一面を見せてくれるので、料理や季節に合わせると、なおおいしい。『雪消碗』の場合は、米や麹のふくらみのある香りをたのしめる人肌燗か、香りがよく出るぬる燗などに温めたお酒に、あつあつの『雪消碗』を召し上がってみてください。そうすることで、口の中に両方の風味がバランスよく広がり、素材の旨みをじっくりと感じていただけるはずです（蓮池）」
目で、舌で、四季の移ろいを喜ぶ
そんな、春を待ち焦がれる食卓を彩るのは、四季の移ろいを伝統文様の組み合わせで表現した江戸切子です。眺める角度によって、さまざまな表情を見せるグラス。眺めて愛でるのはもちろん、口に運ぶとまた景色が変わり、使う喜びを、そのときどきで感じられます。
雪解けの報せも届き始める頃とはいえ、まだまだ寒さの厳しいこの季節。凍える手指をさすりつつ、そろそろポカポカ陽気が恋しいと願う気持ちは、今も昔も変わりません。おなかの底からやさしく温めてくれる豆腐料理とお酒をいただきながら、春を待つとしましょうか。
「雪消碗」のつくり方
豆腐に合わせるのは、冬にますますおいしくなるかぶ。おろし金ですりおろすと、独特の香りがより感じられます。大根より辛みも少ないので、一番出汁を活かした優しい味わいのあんとも相性がよいです。また、雪から顔を覗かせるふきのとうを連想させる蕗味噌は、お好みで柚子味噌や金山寺味噌などにアレンジしても。
材料（2人分）
豆腐（絹ごしがおすすめ） 1/2丁
かぶ（小かぶがおすすめ） 3個
蕗味噌 小さじ2
＜汁＞
一番出汁 300ml
日本酒 大さじ1
塩 少々
薄口醤油 小さじ1/2
＜あん＞
水溶き片栗粉 適量
つくり方
1 豆腐は器に合わせて切る。かぶは皮をむき、薄い輪切りを6枚つくり、残りはすりおろす。
2 鍋などに＜汁＞の材料を全て入れ、一煮立ちさせる。豆腐、かぶの輪切りを入れ、豆腐がグラグラしない程度の中弱火で5分ほど加熱する。火を止め、あらかじめ温めておいたうつわに、豆腐、かぶの輪切りを盛り付け、すりおろしたかぶをのせる。
3 再び＜汁＞を加熱し、水溶き片栗粉でとろみをつけて＜あん＞にする。蕗味噌を＜あん＞少々で溶き伸ばす。
4 2で盛り付けたうつわに＜あん＞をかけ、3の蕗味噌を添える。
RECIPE
蓮池陽子｜YOKO HASUIKE
料理家。東京都出身。「Aterie Story」の屋号で、レシピ開発・監修、レシピ本の制作などを行う。
今回使用した江戸切子はこちら
