職人と江戸切子 -Vol.5 美しさのガイド「割り出し機」
「江戸切子」は一つひとつ、ガラス職人が吹いてつくるガラス生地に、江戸切子職人が細やかなカットを施していきます。光を受けるとキラキラ輝き出す、繊細で華やかなきらめき。その美しさのため、職人は、日々、江戸切子と向き合っています。
確かな腕と豊富な経験に甘んずることなく、目の前のガラス生地と真摯に向き合う。厳しくもすばらしい、その世界。
ここでは、唯一無二の江戸切子に欠かせない“職人”を取り巻くストーリーをご紹介します。
今回ご紹介するのは、職人の技術とアイデアを具現化するために欠かせない“道具”の一つ「割り出し機」の話です。
さて、割り出し機についてお話しする前に。江戸切子の職人は、どの道具を使用すれば効率よく、きれいな仕上がりになるかをとても大切にしています。効率よく仕上げるには、適切な道具を選ぶこと。そのためにも、道具一つひとつの性能を把握している必要があります。
また、道具の状態も把握していなければいけません。くる日もくる日も繰り返し使うため、状態はいつも同じではなく、変化しています。そのわずかな違いも、繊細な仕事が求められる江戸切子では仕上がりに影響するため、定期的なメンテナンスも欠かせないのです。
割り出し機は、「割り出し」といわれるカットの下書きの作業工程を短くする道具です。かつては、ガラス生地に合わせた型紙を一つひとつ用意しなければならず、大変手間ひまがかかりました。しかし割り出し機の登場で、その必要がなくなったのです。
使い方はシンプル。ガラス生地を台にセットして、カットする箇所にマーカーで「分割線」を引いていきます。分割線は、カットをするための道具である「ダイヤモンドホイール」を当てる箇所の目安。正確に引かれていることで、カットのバランスが整い、仕上がりの美しさに繋がります。
ただし、割り出し機はあくまでもガイドにすぎません。カットするガラス生地自体に歪みや傾きがある場合は、中心を調整したり、紙を噛ませて高さを均一にするなど、職人がその目と手で調整をする必要があります。
自身の経験と勘を大切に。きれいに整ったカットを施すため、割り出し機の力も借りて、作業していく。まさに江戸切子の職人は、道具と二人三脚なのです。